いつの間にか知らず知らずの内に、こんなにもキモチが大きくなっていた。
こんなに思いが溢れるなんて・・・。
こんなにせつないなんて・・・。
こんなに・・・苦しいなんて・・・。
毎晩、毎晩、貴方は私の夢に出てきては、私の心をかき乱す。
あまりにも思いが大きすぎて、眠れない夜もある。
私は毎晩溢れる思いをとめる事が出来なくて、いつの間にか頬を伝っては流れてゆく。
恋する気持ちがこんなに苦しいなんて・・・。
こんなにも貴方に対する思いが大きくて・・・。
いったい自分でどうしたらいいのかわからない。
この気持ちを貴方に打ち明けたら・・・・・?

『ううん出来ない。』

今のこの居心地のいい友達関係を壊すことなんて出来るはずがない。
貴方に気持ちを伝える程私は強くもなくて・・・。
貴方に釣り合う程の人間でもないから。
私には無くてはならない存在。
友達でいいから、私の側にいて欲しい。
ただ貴方の側にいるだけでいいから・・・・とそう思っていたのに。
私の想いは思いの他、大きく成り過ぎていた。
でも自分の気持ちなんか言える訳も無く、
玉砕された時なんかを考えると自分ごと全部壊れてしまいそうで・・・・。
友達の関係さえ居れなくて
貴方の側に居れなくなってしまう事がとても怖かった。




いつもの毎日。
〜、帰んでぇ〜。」

仲の良い友達関係の私達。
「ちょっと待って。」

私は鞄に教科書やらを詰め込みながら声を掛ける。
「早くしぃ、相変わらずトロイなぁ〜。」

いつものごとく軽口を叩く侑士。
「トロイ言うな、馬鹿侑士。」

いつものごとく憎まれ口を叩く私。
毎日繰り返される日常。
ただいつもと違うのは、私の心の中だけ。
いや違うか・・・心だけじゃないか。
侑士に対する態度、いつもの通りに振舞おうとしている。

「関西人に馬鹿はアカンで、馬鹿は・・・。」
「フンだ、バカーバカー。」
「ムッ、馬鹿はアカン。」
いつもの私を演じる私。
せつなさと虚しさだけが心に残る。





本日は水曜日、侑士の部活は休み。
こうやって水曜日はよく侑士と帰宅を共にする事が多い。

校門をくぐろうとしたそんな時。
「忍足先輩。」

後ろから侑士を呼ぶ女の子の声。
「ん?」

後ろを振り返る侑士。
「あ・あの、少しいいですか?」

いつもの告白。
侑士は、とてもモテル。
テニスは強いし、頭もいい。
顔も良ければ、性格もいい。
モテナイ筈がない。

私の心は苦しくて息が出来なくなってくる。
「あっ・・・侑士、私先に帰るね。」
「あっ、おい。」
侑士の掛ける声を無視するかの様に私はその場を歩き出した。

一緒に居れるわけが無い。
私は心中を悟られないように、いつもの様に普通に歩く。
駆け出したい思いを胸にしまいながら。
角を曲がったら走ろうと自分に言い聞かせながら。
いつもの歩調を一歩一歩踏みしめながら歩く。
息が出来ない程のこの胸の痛みに絶えながら、
溢れそうな瞳から涙が零れ落ちない様に我慢しながら。
角を曲がったとたん私は自分の思いを振り切るかのように駆け出した。
この苦しい気持ちとともに私の瞳からは次から次へと涙が零れ出した。

どれぐらい走ったんだろう?

いつのまにかどこをどう走ったのか、公園に足を踏み入れていた。
少し大きめの市民公園。
今は丁度アジサイが綺麗に咲き誇っている。

私は近くにあったベンチへと腰を降ろした。
「ハァ、ハァ・・・ハァー−−。」

走って乱れた呼吸を整える。
零れ落ちる涙は止まらない。
溢れる思いも止まらない。
なんで私ここまで侑士の事を思ってるの?
なんでこんなに苦しいの?
恋って好きになれば成るほど苦しくなる・・・。
最初の頃は傍に居られるだけで、嬉しかったし楽しかった。
ドキドキしていた胸の鼓動も今ではズキズキしている。
好きの度合いが大きくなる程、想いは貧欲に色々と欲しくなる。
恋って楽しい事ばかりじゃない。
今まで好きになった人が居なかった訳じゃない。
ただ、ここまで人を好きになった事がなかっただけで。



空はまるで私の心を映し出したかの用に灰色。
ポタン。
雨粒が私の頬を濡らす。
「雨・・・。」
ポタン、ポタン。
まるで私の溢れ出した涙と一緒。
次第に強くなっていく雨。
少し濡れるのもいいかも知れない。

アフレダス、ワタシノココロゴトナガシテクレルカモシレナイ。

「気持ち・・・いいな。」
空に顔を向けて私は雨を受ける。
雨の冷たさが私を少し落ち着かせてくれた。
「アハ、ビチョビチョ。」
今更ながらに遅いが、私は大きな木の下で雨宿り。
辺り一面には、綺麗にアジサイが咲き誇っている。
今の私の気持ちと一緒で濃いブルー。
「綺麗・・・。」

何をするでもなく私はアジサイをジッと見つめていた。
ただただジッと眺めていた。

時間の感覚がない。
どれくら立ったのだろう。
不意に腕時計を見る。
ここに来てから結構な時間が経っていた。
でも、中々帰る気にはなれなくて・・・、
どうせ家に帰っても心配する人もいないのだから別に良いか。
何せ私は一人暮らし。

だからもう少しだけ、アジサイを見つめていても良いよね?

また涙が溢れ出してくる。
声が出るわけでもなく、ただただ頬を伝っては零れ落ちる涙。
周りは雨音だけが響いている。

急に人の気配がした気がした。
何気なしに後ろを振り返って見たら。
「!?・・・ゆぅ、し。」

私の後ろに居たのは、侑士。
驚いて息を呑んだ。

「・・・・お前何やってんねん。」
静かに口を開く侑士。

「・・・別に何も・・・。」
俯く私。

「じゃぁ何でこんな所に居るのや。」

「・・・・・・。」

2人の間に微かな沈黙。

「・・・?」

「・・・アジサイ・・見てた。」
侑士は深くため息をはいた。

「こんな雨の中でか?」

「・・・ぅん。」

「そうやって、一体何考えてねん・・・こんな雨の中。」
私に一歩近づく侑士。

「別に・・・何も考えてなんかない・・。」

の細い腕を掴み忍足は大きな声を上げた。

「じゃぁ何で泣いてんのや。」

「・・・・・・・。」
俯いたまま無言の

。」
ビクッ、の身体が少し震える。

「・・・・・・・。」

!!」
声を少し荒々しく上げる忍足。

「侑士には・・・侑士には関係ない。」
俯いたまま小さな声で答える。

「関係ない・・・。」

「・・・・・・。」
深く息を吸い込む侑士。

そう侑士には関係ない。
これは私の気持ちの問題だから。

「こんなにびしょ濡れで、風邪引いたらどないすんねん。」

「風邪なんか・・・引かないもん。」
私が風邪引いても関係ないでしょう?

「こんなに冷たくなってんのに、引くに決まってるやろうが。」

「関係ない。」

「関係ないってお前なぁ〜、何考えてんのや。」

侑士、時にはその優しさが残酷だって事貴方はわかってる?
心配で私の事を探してくれて、心配で私の事を気遣ってくれて。
私が友達だから?長い付き合いだから?普通の人より特別に接してくれるのは嬉しいよ?
だけどその反面、今の私には辛すぎる。
私の事を何も思っていないなら下手に優しくしないで欲しい。

「帰るで。」

そう言って侑士は私の腕を引いて歩き出そうとした。
その瞬間。

「!!。」

私は掴まれている腕を大きく振り解くと、侑士が進もうとした方向と逆の方へと走り出した。
一瞬驚いた忍足だが、の後を追う。

「お前何考えとるんや。」

「来ないで。」

そう叫ぶのに、そんな事関係ないとばかりに追いかけてくる侑士。
運動部の侑士と帰宅部の私の体力なんて知れてる。
十数メートルも走らない内に侑士に腕を掴まれてしまった。

「離して。」
暴れる。

「離したらお前逃げるやろ。」
なおも侑士から逃れようと暴れてると。

「いいかげんにせい。」
大声を上げるとともに侑士は私を抱きしめた。
抱きしめられた事に驚いて動きが止まる。

「お前、ほんまに何考えとるんや?」

「・・・・・・・。」

「最近のお前変やで?」

いつも通りに振舞っていた筈なのに、確かに貴方は色々と鋭いし敏感な人だとは思う。
私の本当の気持ちには気がついていない鈍感な癖に。
上手い具合に貴方を誤魔化せてると思ってたのに、何で気づくの?

「なぁ、。」

「私の事なんかほっといて。」
俯いたまま小さな声で答える。

「ほっておける訳無いやろ?」

「・・何で?侑士には・・関係ないでしょう?・・・お願いだから・これ以上私に構わないで。友達としてなら・・・なおさら。」

これ以上私を苦しめないで・・・。
これ以上私を惨めにしないで・・・。

目をつぶり、軽く深呼吸をする侑士。

「・・・顔あげろや。」

「・・・。」

。」

「・・・いや・。」

侑士は深いため息を吐くと、抱きしめていた腕をといた。
そう思った瞬間、両手を頬に当て顔を上に向かせた。
私は視線を侑士に合わさない。

「・・文句言うなや。」

侑士がボソリそう言った瞬間、唇にやわらかくて暖かい感触が触れた。
一瞬何が起きたのか、わからなかった。
わかった時には、唇は離れていた。
驚いて目を見開き侑士を見つめる。

「やっと俺を見たな。」

「・・・なんで・・なんで、こんなことすんの。」
私の瞳から先ほど以上の涙が溢れ出す。

「惚れた女にキスして何が悪いんや。文句言うなゆうたやろ。」

侑士の真剣な眼差し。
惚れた女?誰が?私?
頭が働かない。
忍足を見つめたまま放心状態の

「よー聞いとけや、友達じゃなのうて、一人の女として俺はお前に惚れとる。」

「・・えっ?」
何?何を言ってるの?

「友達としてやなくて、一人の男としてお前の事心配してるんや。」

真剣な瞳。
優しい瞳。
愛しさの溢れ出す瞳。
そして又、私をそっと抱き寄せる。
耳元で熱い吐息とともに愛の囁き。

「惚れとる女を心配して何や悪いか?惚れとるからお前にキスをして何や悪いか?」

「・・ゆぅしぃ。」
侑士の背中に腕を回して抱き胸に顔を埋めた。

ワタシノココロカラ、アフレダスアタタカイオモイ。

「・・す・き。」
私の唇から小さく零れ落ちる愛の言葉。
私を抱きしめる腕に力が入る。

「侑士が好き。」

「ん、顔上げろや。」

「・・・ぅん。」
私の頬に流れ落ちる涙を、優しく侑士の指が拭っていく。
そして再び、侑士と唇が重なった。



   





「で、お前がここの所おかしかった理由はなんや?」
「たった今解決したから、もういいんですぅー。」
「なんや?それ?」
「馬鹿侑士には、一生解りませーん。」
とびっきりの笑顔で答える
「お前は、関西人に馬鹿はアカンって、何べん言えば解るん。ちなみに馬鹿馬鹿言うけどな、お前もかなりの馬鹿やで。」
拗ね気味な侑士。
「そうかもね。」

ブルーだった気持ちも、いつしかピンク。
まるで土の変化で色の変わるアジサイの様。
相手の気持ちで変わる自分の心の色。