遠い人だと思ってた。
私には手の届かない人だと…。
それは、近くに行けないだとか友達になれないとかじゃなくて………そう彼の特別な人になれないって。
そう思ってた。
彼は入学当初から目立ってて、それは何故かと聞かれれば新入生代表で挨拶をしてたし…。
新入生代表なんて、学年で頭が一番良いって事でしょう?
更に、その入学式の日にテニス部に喧嘩売っちゃうし…。
しかも1年生にしてテニス部部長に就任しちゃうし。
見た目もすごく100%パーフェクトでカッコいい上に頭は良いし。
強豪と言われるあの氷帝テニス部に、1年生ながらにして部長に就任しちゃう程の実力を兼ね備えた運動神経。
更にはまさに決定打とも言うべきか、お家はあの有名な跡部財閥のお坊ちゃま。
すべてにおいて兼ね備えた彼には、それだけの見合う人が相応しいと。
だから、平均的レベルでしかナイ私には遠い存在と。
諦めてたんだよね………彼の隣に並ぶ事を。
1・2年生の時はクラスが別で、中学3年の最後の年に彼と一緒のクラスになった。
最初は憧れが強かったんだと思う。
けど他の女子達みたいに色めき立つわけでもないし、かっと言って倦厭する訳でもなかった。
普通の人と違うんだって、近づき難い人だって思うのもアレだし。
近づけば絶対に好きになるって分かってたけど。
でも一緒のクラスになれたんだから、せめて友達ぐらいには…って。
友達って言うのも図々しいとは思うけど。
近づいてみたかったんだ。
どうんな人だろうと………。
4月の始業式の後のホームルームで席替え。
先生曰く『3年ともなれば誰が誰なんて大抵解るだろう』って事で席順は名簿順じゃなくて席替えに。
そんな席替えで運良く窓際一番後ろの席を引いた私は超ラッキーって思った。
だけどラッキーだったのは、それだけじゃなくて…まさか彼の…跡部君の隣になるとは思ってもみなかった。
心臓はもうバクバクもんで。
友達になりたいなとは思ってみたけども、そんな易々と気軽に話しかけられるほど度胸なんて据わってない。
だから『よろしくね』の一言だけ。
日々過ぎ去ってゆく中で彼とそれなりの会話をする様になったのは、席替えをして半月程経った頃だった。
別に特別な何かがあった訳じゃなかったけど。
流石にほぼ毎日近くで顔を合わせていると多少、度胸も肝も据わってきた訳で。
いつ席替えがあるのか何て解らないけど……解らないからこそ少しでも会話をしようと思ったんだよね。
朝と帰りの挨拶だけじゃなくて…。
勿体無いと思った。
折角一緒のクラスになれて、その上席まで隣になったっていうのに。
少しでも何かしら会話が出来ればいいと思った。
でもそれは、しつこ過ぎず彼が嫌悪感をいだかない程度に。
だってさ、隣の席だからよく解るんだよね………。
休み時間とか跡部君が自分の席に居る時に近寄ってくる女子達に苛立ちと不快感を表してるのを…。
彼は大人だから、あからかさまに顔とか態度とかその子達には出してはいなかったけど。
それは、彼女達が居る間の時だけで、授業開始の5分前のチャイムが鳴って去って行った時に吐き出す溜息と眉間の皺。
それを度々見かけているうちに、ついつい言っちゃったんだよね『大変だね』って。
平均的容姿をしている人にしてみれば、モテルなんて羨ましい限りだと思うけど。
でもモテル人にはモテルなりの苦労とかがあるんだって思った。
決して彼がパーフェクトな人間じゃないのも解る。
努力してきた結果がおおいに発揮されて目に見えるだけ。
見た目は持って生まれた遺伝子なんかもあるから努力とかでは、どうにもならないけど…。
でも天は彼に二物も参物も与えたって、羨ましいとか良いよなとか言う人は沢山いるけど、それはは大いに間違ってる。
何もせずに与えられる物なんて無いんだよね。
そんな跡部君を敬っているのかなんなのか解らない女子達。
彼のプライベートの時間なんて与えてあげないって感じに、毎時間×2休み時間毎に現れる。
別に同情とかじゃないけど、一日ずっと学校に居る間は気が張り詰めてるんだと思った。
そんな彼に学校での時間で休息出来る時なんて殆ど無いに等しい。
唯一、大好きなテニスをしている部活の時だけが、彼の心休まる時間。
そして、日々溜まったストレスを発散させる場所だとも思う。
そんな跡部君に対して『大変だね。』って。
その一言が会話する切欠だった。
殆ど必要な事意外しゃべった事なんて無くて。
彼にしてみれば、私の最初の印象なんて多分やかましくてシツコイ奴が隣にならなくて良かったって、その程度だったと思う。
切欠は彼を労う言葉。
私が発した一言に彼は私をチラリと見ると『まったくだ。』とオマケに溜息付。
眉間に皺なんて寄せちゃって。
そんな彼にミントが効いたキャンディーを一粒。
気休めにもならないかもしれないけど、少し気持ちの切り替えになればいいなと思った。
私の勝手な想像で彼はきっと甘いものは好まないだろうと思った選択。
でもよく考えれば受け取ってくれるかどうか?食べてくれるかどうか?なんて考えてもなかった。
渡した後に気がついたんだよね。
あぁ、受け取ってくれたは良いけど、きっとそれは社交辞令。
酷い言い方かもしれないけど、誰かの手に渡るか最悪ゴミ箱行きだと。
でも、彼はビリリリっと袋を破くと口の中へとキャンディーを放り込んだ。
そんな彼の行動に嬉しくて思わず零れた笑み。
私が微笑んだ顔を見て跡部君は不思議そうな顔をしてたっけ。
それからは、一言二言の挨拶だった日々から世間話をする程度には会話をする様になった。
しつこく無い程度に…。
話せるだけで嬉しかった。
近くに居れるだけで心が踊った。
やっぱり思った通り、憧れだった気持ちはいつしか好きに変わってた………。
跡部君と普通に会話が出来る様になった当初は、嬉しかっただけだったのに……それがいつしか心苦しくなった。
これで満足な筈なのに………。
友達の分類に入れなくても、こうして席が隣で話が出来て十分に贅沢だと思う。
人って一つ手に入れちゃうと、その次が欲しくなっちゃうんだよね。
神様の気まぐれが起こした偶然で、一緒のクラスになる事が出来て。
さらには、隣の席にまでなれて。
そして普通に話す事が出来て……これ以上何も求めちゃいけないと思う。
なのに……こうして近くで会話する事が出来たら、跡部君のもっと近くに行きたいって。
彼のプライベートな姿が見たいって。
色々と欲が出はじめた。
でも欲が出てきても最初から跡部君の特別になれないって諦めている私には何も出来ない。
何も出来ないから、心の中でもがき苦しんで。
嬉しい筈なのに彼と会話をする度に悲しくなってきた。
こんな会話をするのも席が隣の間だけ。
運がよければたまに会話をする機会があるかもしれない。
けど結局、私と彼の関係はただのクラスメート。
それ以上もそれ以下も無い……。
次第に私から会話を振る事が少なくなっていった。
元々、会話自体すごいする訳じゃないし、話しかけるのは殆ど私からだったから。
そのうち彼の隣に居る事にも息苦しく感じる様になった。
こんなに近くに居るのに見つめる事なんて出来なくて。
こんなに近くに居るのに触れる事なんて出来なくて。
諦めてるのに諦めきれてなくて。
好きって気持ちと駄目って気持ちが反発しあって、ドンドンと私の心は苦しくなっていく。
彼に対してこんな気持ちを抱いている人はいったいどれだけ居るのだろうか?
想ってても想ってるだけで…どうにもならない。
気持ちを切り替えたいのに、どうして私の心をこれ程までに惹きつけるのか。
私が抱いているこの気持ちを跡部君が知ったら……きっとウザイって思われる。
またか…って、彼に告白する女の子は次から次へと出てくるから。
人に想われるって悪い気はしないとは思うけど、でもそれって限度があるよね。
だから、彼にしてみればもう沢山な状態だと思うんだ。
好きな人には嫌われたくないから、だから煩わしい事なんてしたくないし。
最初から諦めてる私には、心にセーブを掛けてこの気持ちを彼に知られない様にするだけ。
誰か他にこんな私でも良いから『好きです。』って言ってくれる人が現れないかと。
その人には悪いけど、そしたら私は彼から心を放す事が出来るんじゃないかと思った。
でもどういう訳かこういうタイミングだけは、いいんだよね…。
誰でもいいから…って思って数日後。
一時間目の授業は英語で、開こうとした教科書から手紙らしきモノがヒラリと。
「あっ。」
手紙は見事跡部君の足元へと。
そんな私の小さく発した声に気がついた彼は、私の視線の先へと。
腰を曲げて取ってくれた。
「ほらよ。」
「あ、ありがとう…。」
さも何でもないかの様にまた授業へと戻る彼。
受け取った封筒を見てみれば、シンプルな薄い水色の封筒で…差出人の名前は無いにしろ表には『 様』と。
一時間目の休み時間が終わり、手には手紙を持ってお手洗いへと駆け込んだ。
個室に入って封を切った手紙の中身は…。
話があります。
今日の放課後4時に、貴女の教室へと行きます。
と。
最後の1行には、聞いた事がある様な男子の名前が。
ただ、私の知り合いで無い事だけは確か。
これは神様がくれたチャンスなのだろうか……彼を忘れろと。
まだ、告白されるとも解らないけど。
昔から、いざという時タイミングが良いのか悪いのか…そういう事が多々あるから何となく私の感がそうだろうと。
落ち着かないまま今日の授業をこなしていった。
空を見上げてみたり、溜息ついたり。
今日一日、先生に指されずに良かったと思う。
だって、何も耳に入っていなかったから。
ノートだって真っ白で。
どこかで時間を潰そうと思っても、落ち着かない心はどこに行っても同じだろうと。
だからそのまま教室で待つ事にした。
いつもならば、終礼のホームルームが終わったら帰る準備をするのに、そのまま席に座ったままで。
そんな私を跡部君はチラッと見たけれど何も言わずに教室を出て行った。
何の興味もありません…みたいな。
所詮そんなもの………だよね。
私は彼の事好きだから色々と知りたいと思うし、動向が気になるけど。
別に彼は、私の事好きでもなんでも無いのだから私の動向なんて気にならないし気にしない。
やっぱり跡部君の事を忘れるべきだと。
想ったって所詮は通じない想い。
もっと傍にいきたいと思っても、もっと仲良くなりたいと思っても。
もっと………。
『あの…俺、さんの事が好きなんだ。』
『………。』
『だから、俺と付き合って欲しい。』
『……(どうしたの私。ここで『うん』って肯いてしまえば)』
『駄目……かな?』
『…少し………考えさせて。』
考えていた事とは裏腹で、曖昧な返事。
何故あそこで『うん』と返事が出来なかったのだろうか…。
想いが通じない相手と解っていても、心の中に未練が残っているからか。
告白してくれた彼は、何を想って私に告白をしたのだろうか?
私相手だったら勝負に勝てると思ったのだろうか…。
でも…最初から勝負を捨ててる私に比べたら……すごいと思う。
告白ってすごいパワー使うから。
いくら考えたって結論は出ないまま。
いつの間にか、時計の針は5時を指し示していた。
このままここに居たって、考えが纏まる訳でも状況が変わる訳でもない。
サッサと帰らなきゃ…って思うのに帰りの身支度をする動作が遅い。
何かをする度に溜息吐いて、そんなんじゃ中々進まないのも当然で。
「何やってるんだろう私……。」
溜息吐いたって何にも状況は変わらないし、結論が出るわけでも無い。
余計気が滅入るだけ…。
俯いて下ばっかり見てたら駄目だ!
よし、顔をあげて背筋をしゃんと伸ばして勢いつけて帰ろう。
と思った。
マサカ丁度、戸の出入り口から人が入ってくるなんて思ってもみなくて。
誰かの……胸へと激突した。
「きゃ。」
勢い余っての衝撃。
軽く弾き飛ばされた私は、後ろへとヨロメキそうになった。
そんな私の腕を軽く前へと引き寄せる存在。
………私が相手に激突した位置といい、私の腕を掴む手の大きさといい男子だなと。
クラスメートの誰かが忘れ物を取りに来たんだろうと。
イキナリぶつかった事への謝罪と転びそうになった所を助けてくれたお礼を言おうと離れていった手を追うように顔を上げた。
「イキナリごめんね?あっ、それとありが……とぅ。」
そこに居たのは予想だにもしていなかった人で。
「あ、あとべ…くん。」
何故ここに…?
彼の様な人が忘れ物をするなんて……珍しい。
前の状態だったら、嬉しい筈であろうこの瞬間も、今となっては居心地悪いだけ。
それは私だけが感じている事だろうけど。
彼とこうして向き合っていたって、別に会話をする事がある訳でも無いし。
また彼も私に用事があって教室に来た訳でも無いだろう。
そもそも私が教室に居るだなんて思ってもみなかっただろうし。
彼と向き合ったまま過ぎていく沈黙に私は耐えられない。
「あ、あの…また…ね。」
出てきた言葉はそれだけで。
顔は自然と下へと下がっていく。
早くこの場から居なくならなくちゃって。
このまま居たら……反発し合う心の痛みに耐え切れなくなりそうで。
涙が出てきそうで、居心地が悪いだなんて言い訳に過ぎない。
そう思わないと駄目だから。
私は跡部君に向き合う勇気さえ無くて。
諦めて、違う方向へと向こうとしている。
唯でさえ諦めきれないこの心は、彼を前にしたら余計に揺らぎそうで。
震えそうになる身体を堪えて私は、跡部君の横を通り過ぎようとした。
なのに………。
ドクドクと胸の鼓動は早くなって、掴まれた場所は熱くて。
いきなり腕を掴まれた行為に対して、驚きすぎて声なんて出なくて息を呑んだだけ。
まさか、跡部君がそんな事をするとは思わなくて。
見上げた先の跡部君は、私を見つめていて。
顔をうつ伏せる事も視線を逸らす事も出来ない程、じっと見つめられていて。
何で跡部君が、私に対していきなりこういった行動をしたのかは私には丸っきり解らない。
何か気に障る事でもしただろうか………?
席が隣だからどうしても避けたくても、あからさまになってしまう様な態度を私はしていないと…思う。
そんな事自分がされたらヤダから…。
それにこれは私の勝手な気持ちの問題であって。
彼の隣に居るだけで心苦しくなってきて、自然と避ける様な形で会話は減っていったが……でもそれでも、必要最低限の会話はしていた。
「あ、あとべ君…?」
声を掛けても見つめられたままで…。
「あ、あの…。」
捉れた腕は熱をもって増幅するばかりで…。
私は早く、彼の目の前から去りたいのに。
今だ離してくれなくて。
解らないごちゃ混ぜの気持ちに、涙が瞳に溜まってきて。
あぁ、このままじゃ零れ落ちてしまいそう。
泣いてるなんて気づかれたくないし、見せたくも無いから自然と顔は下へと下がっていくばかりで。
「………離して、ください。」
ただ言える事はそれだけで。
震える声を絞り出して伝えてみても、跡部君は離してくれなくて。
抜け出せないこの状況は、私の身体を震わせるだけ。
瞬いた瞳からは、とうとう我慢しきれず零れ落ちた涙。
ポタポタと流れ落ちる涙は、教室の床に小さな染みを作る。
跡部君の意図は解らない。
私はそんなに彼の気に障る様な事をしてしまったのだろうか?
いくら考えたって答えは出ない。
私の感情は昂ぶっていくばかりで、涙なんて到底止まりそうにない。
離してくれない…、何も言ってくれない…。
私はどうしたらいいの?
強く掴まれている訳ではないから、手なんて振りほどいてしまえばいいのかもしれない。
でも、それはイケナイ気がして。
私には跡部君の心なんて解らないけど、彼にはきっと何かしらの意味があって起こしている行動なんだと。
自分からは振りほどけない。
だから、私が望むのは跡部君から腕を振りほどいてくれる事だけ。
「お前は………。」
発した言葉に顔を上げた。
見つめた跡部君は、先ほどと変わらず私を見つめたままで。
「…………。」
「、お前は……何故俺を避ける。」
あからさまにしていなかった……筈。
必要最低限な会話はしていた……筈。
「気のせい…だよ。」
それしか言える事はない。
「違う、気のせいなんかじゃねぇ…。」
「ど、どこが避けてるっていうの…、挨拶してるし……。」
「挨拶だけな。」
「………。」
そうだった彼は鋭い人だ。
人の微妙な変化でさえ、気づいてしまうんだ。
挨拶さえしてれば、気づかれないなんて浅はかな考えをしたんだろう。
でもそうでもしなければ私は、跡部君に対して不快な思いをさせてしまう態度しか取れないと思ったからで。
あからさまな好意を寄せる態度でも、気まずい雰囲気を醸し出す態度でも彼に取っては不快だと。
「気の、せいだよ。」
言い訳なんてこれ以外に言える事がなくて。
それよりも何故跡部君は、一生徒の私の動向なんて気にするんだろう…か。
彼は、人の動向なんて気にしない人だと思ってた。
避けられてるって事に気づいてしまえば、あまり気持ちの良いものじゃないのは確かだけど。
避けたいなら避ければいい、俺はお前の事など気にしないそんな人かと。
「俺はお前に何かしたのか?」
「えっ………。」
そう言った跡部君の表情は、なんだか辛そうで。
違う。
別に貴方は何もしていません。
何も変わらず貴方が私に接する態度はいつもと一緒です。
「それとも俺の事で何かされたのか…?」
「……ち、がう。」
違う。
跡部君の隣になって羨望の眼差しやら嫉妬の視線やらを感じた事は無いとは言わないけれど。
でも、何か意地悪をされたとかそんな事はされてはいない。
違うんです。
これは私の気持ちの問題なんです。
「じゃぁ、何故俺を避ける。」
「………。」
ちゃんとした正当な理由を言わない限りは、離してくれそうもなさそうで。
最初から諦めていたけれど、彼に彼女が出来てしまったら絶対に心に大きな傷を負う事を考えれば傷つくのが早いか遅いかの違いだと決心して伝えようと。
傷つきたくなくて避けていた自分の気持ちを。
私はいつも最初から駄目だと解ってしまうと、すぐに諦めてしまう。
だから、八方塞がりで気持ちが余計に重くなってしまうんだ。
毎回スッキリしない気持ちを弄んだままで。
このままずっと同じ事の繰り返しで、違う方へと逃げてばっかりで。
そんな事をしたって自分ばかりか、囲ってくれた人まで傷つけるばかり。
「…す、きだから……好きだから。」
「…………。」
「最初は、話せるだけで嬉しかった。傍に居られるだけで良かった……でも、好きだけど想いが伝わらないって解ってるから……段々隣に居る事が苦しくなってきて……
解ってた筈なのに、最初から諦めてた筈なのに………跡部君を前にしたら気持ちが溢れそうで、態度に出そうで……だから必要最低限な会話しかしなければいいって思った。
私の気持ちがバレたら、迷惑だと思ったから………。私が自分でこの気持ちを切り離そうとしたから………。それで跡部君に不愉快な思いをさせてたなら、ごめんなさい。
………。」
好きだから傍に居たいけど、好きだから傍に居ると苦しい。
話せれば嬉しかった気持ちも、好きの度合いの比重が増してくると………放せなくなる。
叶わないって最初から解っているのなら、関わらなければ良かったと思うけど。
でも、やっぱり跡部君ががどんな人か知りたかったし、せめて友達ぐらいになれればって思った。
そんな浅はかな考えだったから、結末はこんな最悪な事態を引き起こした。
このまま何事もなく自分で勝手に苦しんで、もがいてこの恋が終わるものだと思ってた。
まさか、私の気持ちが本人の知るところになろうだなんて考えてもみなかった。
「本当に………ごめんなさい。」
「…………。」
不愉快にさせてしまってごめんなさい。
貴方に恋心抱いてごめんなさい。
「ぇっ…!!」
「もう、泣くな…。」
一瞬何が起きたのか解らなかった。
理解した時には、驚きのあまりあれ程止まらなかった涙が嘘の様に止まった。
だって私は暖かい温もりに抱きしめられてたから………そう、跡部君の腕の中へと。
「あ、とべくん……?」
「俺は…の何も変わらない態度が嬉しかった。周りのうるせぇ女共みたいにギャーギャー騒がねぇし、媚も売らない。誰とでも接するように接するその態度が嬉しかった
。いつも学校じゃ息つく暇なんて限られた場所しかねぇ…最初は……隣になった時は楽な奴の隣になって『あぁ、当分の間授業は静かに過ごせる』とその程度しか思ってなか
った。………でも、と話す切欠があった時、お前俺に飴くれたよな…?」
「……うん。」
「俺が受け取った時の笑顔を見て、すごく心が穏やかになった。それからと会話をする様になって……たいした内容じゃないたかが世間話だったが、お前と会話する時は
、いつも心が穏やかで落ち着けてお前の傍に居る事に安らぎを感じた。………それが何故なんて考えもしなかったが、お前が段々俺から距離を置く様になった時、初めて自分
の気持ちに気がついた。焦がれる程の想いが俺の中を駆け巡った。」
「……………。」
「もっとお前に近づきたいのに………と、そう思うのにお前はドンドンと俺から離れていく。どうにかしたいのに、考えても原因なんて解らねぇ……そうこうしている内に
横からちゃちゃが入って、お前が奪われると思ったら……ウダウダ考えてる暇も様子を伺ってる暇もねぇと思って行動に起こした。」
今、起きてる事は現実?………だよね。
私、夢見てないよね………?
「それは……私は、跡部君を諦めなくても良いって事……?私の気持ちは迷惑じゃないって、こと?」
「が好きだ、だからお前は俺の傍に居れば良い。」
そう言って跡部君がくれたキスは、
暖かくて、
嬉しくて、
心地良くて。
胸って苦しい時だけじゃなくて、あまりにも嬉しい時でもキュンと締め付けられる時があるんだって。
この時初めて知った。
触れてた時間は、そう長くは無くて。
もっと跡部君を感じていたいと思ってしまった私。
だから、
「もっと……」
コメント:
イヤイヤお久しブリです。待ってなかったかもしれませんが、お待たせしました(゜゜)(。。)ペコリ
週一でUPする様に精進したいんですけどねー。
中々上手く事が運ばん。
ゴールデンウィーク中に少しでも書きだめが出来る事を祈ってて下さい。(08/04/21)