それは突然の出来事だった・・・。
俺の唇に重なる唇。

何が起きたのか・・・?
俺は放課後の教室に忘れ物を取りに来ただけの筈だったが・・・?

何故こう言う状態になっているのか?
驚きと戸惑いで一瞬動く事を忘れていた。

我を取り戻した俺は、俺に覆いかぶさる相手の肩を前へと押し出した。
その相手は、・瞳が見えない程の分厚い眼鏡をかけたクラスメートだった。

・・・クラスが一緒とは言っても一言も喋った事の無い相手。
見た目の雰囲気は、分厚い眼鏡が印象づけているのであろうか真面目で大人しそうな感じだ。
余り人と接する事が好きでは無いのだろうか・・・クラスで親しく喋っている相手を見た事が無い・・・。
別に虐めを受けているとか、まったくもって交流を取っていないと言う訳ではないが・・・一人で過ごしている事が多い。

が、かと思えば・・・結構目立つ人間の加藤、そいつと仲が良い。
よく一緒に居るのを見かける。
加藤は別に悪い意味で目立って居る訳ではない。
何故俺が親しくも無いの交流関係を多少なりとも知っているのか?と問われれば、俺は生徒会長。
それを補佐するのが加藤だからだ。
まったくもって加藤とは対象的だ。
加藤は顔も悪くなければ、わりかし友好関係は広い。
それは、浅いのか深いのかまでは知らないが、奴の周りには人が結構集まる。
フッ、まぁ俺様に比べれば大した事は無いがな。

いや・・・それよりこの現状をどうするか?だ。

「「・・・・・・・・・。」」

の瞳はこちらから窺う事は出来ないが、顔が俺と対照的に真正面に向いているという事は、恐らく互いに見詰め合っている状態なんだろう。
分厚い眼鏡の所為で俺のインサイトでさえ持っても、相手が何を考えているのか分からない。
目は口ほどに物を言うとは正にこの事だな・・・。
読めねぇーよ。

どうするかと考えあぐねいている俺とは裏腹に、は立ち上がる。

「う〜〜ん、ごめんね?全然回り気にしてなくて、まさか人が入ってくるとは思わなかったし。」

至って動揺もせずに話をしだす
オィ、普通は動揺するだろ!!
ましてや、見た目的にかなりの動揺しそうな奴なのに・・・。
逆に俺が動揺してるぜ。
らしくもねぇ・・・。
何で顔も赤くなりもせず、淡々と喋ってるんだコイツは・・・。
しかも、氷帝NO.1人気の俺だぜ?
何か反応しろよ!!

「何かアクシデントで接吻までしちゃったみたいだけど、まぁ、でも跡部君はそんな事気にしないよね?」
「あーん?」
「まぁあれだ、相手が可愛い子とかだったら良かったんだろうけど、私で不運だったね?でも、まさか跡部君ファーストキスじゃないだろうし、初めてが私じゃなかっただけ良かったね。」

オィオィ、何勝手に自己完結してどんどんと語ってるんだ?
今時、接吻って有りか?お前いつの時代の人間だよ・・・。
しかも確定した喋り方してるしよ。
でも、まさかのまさかで、今さっきのその衝撃が俺のファーストキスだ!!
何だ、その何もかも俺はすべて済ませてます!みたいな言い方はよ!!
俺に嫉んだ男共が在る事無い事言いまくった噂で色々と広まってはいるが、そんなのは全部嘘だ。
俺はこう見えても・・・純粋だ!!
まぁ、時たまからかう程度で気の強い女に声をかける事をする時もあるが本気じゃねぇーし、乗ってきても相手にはしねぇー。
俺はタラシじゃねーぞ!!

「それじゃぁ、ごめんねぇ〜。」

本当にお前は悪いと思っているのか?
悪びれた様子も見せず、言い方もほにゃらで・・・。


って・・・オィ!!
それだけかよ!!

いつの間にかはその場から居なくなってた・・・。
アイツ・・・何なんだ・・・?
よく掴めねぇ人物だ・・・。

「フゥ・・・。」
取り合えずいつまでもここで座っている訳にもいかねぇ。
随分と俺は動揺と言うか呆気に取られていたんだな・・・。
片膝に手をつくと俺は立ち上がった。


それよりも誰も居ない放課後で良かった。
誰かに見られたら大変な事態になってたなと思っていた矢先・・・。
ふと感じる視線。
感じる先に目を向けると・・・廊下の曲がり角から目から上だけを出して、こちらを窺っている・・・忍足。

「チッ。」
マズイ奴に見られた・・・。
目だけを見て解る。
完璧に今までの出来事が見られていた。
奴の目は笑っていたから。

ニヤニヤしながら、こちら側に歩いてくる忍足。

「災難やったなぁ、跡部。」
「・・・・。」
「噂って怖いなぁ〜、実は跡部は純粋なんになぁ〜。」
コイツの物言いにイライラする。

「本当はファーストキスやったんになぁ。」
「うるせぇ、黙れ忍足。」
「おぉ怖。」
「何でお前はこんな所に居るんだ、部活はもう始まってるはずだろ。」
「跡部と一緒で、忘れもん取りに来たん。」
「チッ、用事が済んだらとっとと部活に戻れ、忍足。」
「ハイハイ。」

俺は忍足にそう声をかけると部活へと戻った。












「あっ・・・。」

忘れもんを取りに行ったのに、取ってくるのを忘れた・・・。







それからだ・・・。
俺の輝かしい人生にささいな災難を振り撒き始めたのは・・・。

アイツとは、これからもただのクラスメートだけの関係だと思っていたのに。
俺の些細な災難はこれから始まっていく。