今日は部活も休みで久しぶりに図書室に寄る事にした。
案の定人は居ないに等しいぐらいの人数しかおらず、静かに読書が楽しめると思った。
取り合えず一通り本棚を眺め気になった題名のモノを手にし、日がよく射す場所へと腰を落ち着けた。

これは……久々に当たりだな。
主に読む本の系統は大体決まってはいるが、たまには違う種類も開拓をしようと読んでみる事がある。
ここの所面白いっと思える本に中々巡りあえずにいたが、久々に面白いと思える本に出会った。
周りなど気にせず、夢中で読んでた。

そんな時、急に現実に吸い寄せられた。
空気が変わったからだ。

感じる視線の方へと目を向けた。
そこに佇んで居たのは見たことがある様な無い様な女だった。


誰だ……?
ドクン



夕日に照らされた図書室に

何だこの胸の鼓動
ドクンドクン

顔は普通なのに…。
夕焼け色の神々しい光がそうさせているのか、身に纏っている雰囲気がそうさせているのかは解らないが俺の胸の鼓動は脈打つ。

ドクンドクンドクン
それはまるでテニスの試合で強い相手とやっている時の様な、興奮とか緊張とか…いや高揚感ともひどく似ている胸の鼓動。

俺は何故絡み合った視線を逸らさない?
いつもだったらすぐに外すというのに。
何故ならば勘違いをするバカが多いからだ。

でも自然と今見詰め合っているソイツは違う気がした。
俺を見つめた表情はかなり驚いた様子で身動き一つしない。
何かに捕らわれている様な。

そういう俺も今だ見つめたまま逸らそうともしない。
が、突然入ってきた来訪者によって止まっていた時間が動き出した。

「おう跡部、こんなトコに居ったのか。」
忍足だ。

「何だよ忍足。」
「大したこと無いんやけど……。」

大した事じゃねぇーなら来るな。
いつの間にかソイツは居なくなってた。
酷く残念な様な……ホッとした様な。

くそ………忍足が来たせいで。
こいつはいつもタイミングが良い時でも悪い時でも現れやがる。















日々忙しい生活の中でも、夕焼けを見ると思い出すアイツ。
恐らく3年だとは思うが、クラスも解らねぇし。
探すにしても俺の様な有名な奴が一つ一つクラスを回れば注目の的だ。
下手に身動きさえ取れない。

学年集会等で探そうと思っても人数が多い上に3年は後ろの方に並ぶ。
いったいどこのクラスなんだ!


あの時の情景が忘れられない。
もう一度アイツに会いたい。
あの時の胸の鼓動の意味を知りたい………。














「…悪いが今は誰とも付き合う気は無い。」

部活中に一度生徒会の用事で抜け出して、再び部活へと戻ろうとした時に呼び止められた。
連れてこられたのは中庭。
俺を呼び止めたその女はしつこくする事も無く想いを伝えられただけ満足だと。
少しだけ悲しそうな表情をすると『どうもありがとう』と言うと去って行った。




外は夕焼け色。




「夕焼け色………か。」
佇んで思い出すはアイツ。
あの図書室から一度も見かけない。
お前はいったいどこに居る?



視線……。
この感じは……俺の感がそうだと告げている。
アイツだと。


ゆっくりと視線が感じる方へと身体を動かした。
夕暮れ時で校舎内廊下は薄暗く、目をよく凝らさないときっと人が居るかどうかなんて判別しにくいと思うが。
でも俺は、そこに居ると解った。
そして絡み合う視線。




………やっと見つけた。



丁度あそこは職員室辺り。
アイツを捕まえる………アイツの傍に行くのに駆け出した。


今までで一番速かったんじゃないかと思うぐらい走ったというのに。


「跡部。」
「………監督。」

よりにもよって何でこんな時に!

「生徒会は終わったのか?」
「…ハイ。」
「だが、こっちは校舎の方に行く道だが?そんなに急いでどこへ行く。」
「……伝え忘れた事がありまして。」
「……お前がか?」
「ハイ……。」
「珍しい事もあるもんだな。」

こうやって会話してる暇なんて無いんだよ!

「もしかしたらもう帰ってしまうかもしれないので、……すみません失礼します。」

そして再び駆け出した。



でもどんなに急いだって、すでにそこは物の空で遅かった。
くそ!!あの時に監督とさえ会っていなければ!


折角逢えると思ったのに。
再び振り出しに戻った。


















あの時の胸の鼓動の意味には、俺はもう気づいている。
意味に気づいたってアイツに逢わなければ何も始まらない。
何でこんなにも接点が無いんだ!
何で何も知らないんだ!!


2度もアイツを見かけたならばもう幻でも何でも無い。
ちゃんと居るんだアイツは。
最初は、幻だったのか?っと思った事もあった。


あの図書室以来、一度も見かける事も無くて。
夕焼け色が見せた幻か?夢か?と思ったが。
でも二度目にアイツを見かけて、やっぱり居たんだと思った。

「お前はどこに居るんだ………。」

放課後の廊下、図書室へ向かって歩いてた。
あれ以来、部活の無い水曜日は必ず図書室へと。
もしかしたら、またアイツに逢えるんじゃないかと。




外は夕焼け色。




廊下側の窓から空を見上げてみれば、綺麗な夕焼け色で。
フっとした瞬間、見上げた空の夕焼け色を見るたびに思い出すのはアイツで。
見上げていた視線を元に戻そうと下げていけば、視界の途中に入った人影。

胸が高鳴った。

間違いない、絶対アイツだ。
俺の跳ねた胸の鼓動がそう告げている。
自然と駆け出した足。
あそこは屋上。
今の状態だと多分まだそこから動く様子は無い。
向かい側の校舎だが、もし万が一そこから動いたとしても逢える。

高鳴る胸の鼓動。
屋上下の階段に到着して、深く息を吸い込んで吐いた。
別に息が乱れていた訳じゃない。
この興奮ともとれる気持ちを抑える為に。

一段、一段ゆっくりと足を踏みしめ上る。
アイツは今ここに居る。

手をかけた扉のノブを回した。
静かな屋上にキィーと響き渡る軋む音。



居た………。



開けた瞬間に絡みあう視線。
3度目にしてやっと逢えた。


何でここに居るのか何て知らない。
でもお前がここに居て良かった。
ドクン。

絡み合った視線。
お前が消えない様に瞬きさえ出来ない。
ドクン…ドクン。

お前の傍へと一歩…一歩近づく。
やべぇ……逢えた事への嬉しさで震えてくる。


「お前……。」
アイツの目の前まで来て立ち止まる。

「名前は?」
一番聞きたかった事。



……。」
「……ね。」


夕焼け色に照らされたお前の驚いた表情。







夕焼け色に胸打つ鼓動。